ページ

2018年7月15日日曜日

「ずんべら坊」と「海座頭」



ずんべら坊

津軽の弘前(現・青森県弘前市)の在(ザイ)に、興兵衛(コウベエ)という喉自慢の男がいた。あるとき、日も暮れかけた近道の山越えで、「思い切れとて五合桝(ゴゴウマス)」投げた、これは一生の別れ桝」とうたいながら、ふらふらと中腹にさしかかった。すると、近くで自分よりもよい喉で同じ歌をうたう者がある。興兵衛はしばらくこれに聞き惚れていたが、いきなり「誰だ」と問いかけると、意外にも耳元で「誰だ」といいざま、ヌッと目の前に現れたのは、鼻もなければ目も口もない、卵にざん切り髪をつけたようなずんべら坊だった。あまりの恐ろしさに「キャッ」と一声叫び、一目散にもときた道を走って隣村の知人を叩き起こし、「今、かくかくしかじかの怪物に出会った」と始終を語った。すると主人は眉をひそめて、「それは変な話じゃ。して、そのずんべら坊の顔はこんな顔だったか」と、いきなりさしつけてくる顔が、前に見たずんべら坊だった。興兵衛はウーンとのけぞったまま気絶してしまったという。

出典:
決定版 日本妖怪大全(講談社)

作者ひとこと:
ずんべらのデザインは、アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』(6期)を参考にしました。元来「のっぺらぼう」の同種として扱われる妖怪ですが、同アニメでは霊形手術を行うという美女として描かれているので、アニメにはない描写ですが仮面を外そうとしている姿にしました。



海座頭(ウミザトウ)

海坊主の仲間で、船を手招きして難破させたり、船を丸ごと呑みこんだりする妖怪である。座頭というからには、海で死んだ盲人の怨霊というようにも考えられるが、これは定かでない。海坊主の目撃談では、民俗学者の早川孝太郎氏が体験したこんな話がある。昭和九年ごろ、調査で鹿児島県の黒島へ行った帰りに、早川氏は不思議なものを見たという。黒島から鹿児島に向かう途中、開聞岳(カイモンダケ)を左手に見たころは、夜の十時から十一時をまわっていた。船尾の甲板に立って白い航路の方を見やると、真っ黒な海上に一人の男の姿が見えた。どうやら溺れているのではなく、泳いでいるらしいと思った。しかし、それにしては泳ぎ方がおかしい。水上にその筋骨隆々の上半身を出して、立ち泳ぎのように直立し、さらに船と同じ速度で同じ間隔を保ちながら、あとをついてくるのである。突然、奇怪な男が「あーあ」と大きな欠伸をした。そのとき、「これは生きた人間ではないな」ということが頭に浮かび、その途端ゾッとしてすぐに船室に逃げ戻ったという。早川氏はこれが何であるかは分からないとしているが、多分、海座頭というのはこんな感じなのだろう。

出典:
決定版 日本妖怪大全(講談社)

作者ひとこと:
海座頭のデザインは、アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』(6期)を参考にしました。周りには柄杓を持った「船幽霊(フナユウレイ)」も描いてみました。

0 件のコメント:

コメントを投稿