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2022年10月7日金曜日

「ウトゥック」


ウトゥック

メソポタミア神話に登場する精霊。シュメールやアッカドには様々な姿をしたウトゥック(即ち精霊)がいた。ウトゥックは、基本的には人間の姿をしているが、頭が獅子だったり鷲だったり、あるいは逆に身体が牛だったりする事がある。ウトゥックとは本来、幽霊を表す言葉だったが、やがて超自然的な力(例えば、睨んだだけで敵を傷付ける、など)を持つ神霊を表すようになっていった。ウトゥックの数は、何千とも何万とも言われている。このウトゥックは天界や地獄を住み処としているが、地上では砂漠、墓地、山、海などによく現れる。ウトゥック達は、その役割も善悪両端である。ウトゥックの内、「ラマッス」とか「シェドゥ」といった精霊は聖なる役目を司っている。ラマッスは、たいてい4枚の美しい鳥の翼を持ち、頭は人間の場合もあれば、鳥や動物である事もあった。善霊達の役目は、天界にいる神と人間の仲立ちをする事にある。例えば、信仰心に厚く神々に忠実な人々の前に立って彼らを先導したり、後ろを歩いていて悪霊や災厄から守ったり、神の恩恵を信者にもたらしたりする。もちろん、普通は向こうから進んで姿を現そうとした時でなければ、目に見えることはない。シェドゥ(シェディム)は、人間の頭をした、たくましい牡牛の姿をしている。前脚のつけ根からは、一対の翼が天に向かってのびている。このシェデゥは、神殿や宮殿の守護神として、よく門の前にその彫像が置かれた。発掘された像から判断すると、その身の丈は4~5mもあったようである。元は善悪両方の性格を備えていたのだが、バビロニアやペルシアでは善なる性格が強調された。ユダヤではシェデゥは、逆に悪霊とされた。神は天地創造の6日目にシェディムの霊魂を造ったが、次の日は安息だったので仕事をやめ、とうとうシェディム達に身体を与えなかったという。一方、害悪をふりまくウトゥック達は「エディンム(エキンム)」と呼ばれている。その名は「持ち上げられた者」という意味を表し、一説によると、幽体離脱した者の魂であるとも言われている。別の説では、エディンムは浮かばれない死者の魂で、自分をちゃんと埋葬してくれなかった事を恨んで生者に災いをもたらすのだと言われている。エディンムに元々翼はなかったのだが、アッカド時代以降になると、次第に翼を備えた者も出て来た。彼等は不和をばら撒き、疫病を流行らせ、なんとか人間を破滅させようと思っている。エディンムは道端で待ち伏せをしていて、注意深く悟られないように人々に近づくので、良いウトゥック達より更に人目につかない。エディンムが人間の上に覆い被さると、その犠牲者は突然心臓や頭や身体全体に痛みを感じて、地面に倒れ伏す。そのつらさは、食事も水も喉を通らないほどだと言う。エディンム達は生者の生気を吸って暮らしている。エディンムは、どんな小さなもの(飲食物など)にも潜り込め、どんな大きなもの(建造物など)とも同化することが出来る。またエディンムは、変身能力も持っており、よく蠍、蛇など毒のある動物に化ける事もある。エディンムに取り憑かれた病人は、医学的な治療をどんなにしても容体がいっこうによくならない。唯一効果がある方法は呪文で、力のある神(例えば、水と知恵の神エア)の名のもとに、強い意志を持って呪文をたたきつけるのである。もし悪魔払い師の力が上であれば、取り憑いたエディンムは逃げ出し、患者は無事に健康を取り戻すのである。またウトゥック自体が、人間に害をもたらす邪悪な精霊や悪霊の総称であるともされる。この場合、ウトゥックは特定の精霊を指すものではなく、悪霊達の総称とされる。悪霊のウトゥックには複数の種類があり、大別すると二種類に分けられる。メソポタミアの人々には、人が死ぬと葬儀を行って埋葬し、更に定期的に弔いの儀式を行う習慣があった。だが、葬儀や埋葬、弔いの儀式を正しく行わなかった場合、その死者の霊は彷徨う邪悪な存在、即ちウトゥックになってしまうと考えられていた。このウトゥックは新月の夜になると冥界から戻って来て、生きている人間を病気にするなどの害を与える。ただし、このウトゥックは後からでもきちんと儀式を行って慰霊をする事によって、冥界に正しく送る事が出来るとされた。もう一つのウトゥックは、知恵の神「エンキ」の胆汁から生まれたとされる存在である。こちらのウトゥックこそが、真に恐ろしい悪霊であると考えられていた。半人半獣の姿で描かれており、頭が人間で体が獣と、その逆で頭が獣で体が人間、どちらのパターンも見受けられる。朽ち果てた建物や洞窟、穴の中などに住んでいるという。彼等は、見つけた全ての人間に対して病などの災いをもたらしたり、心に悪い影響を与えたりするとされる。例えば、犯罪などの不正な行為を考えつかせたり、人間や家畜を病気にさせたり、家族の不仲を巻き起こしたりするなどといった様々な厄災をもたらすものであるとされ、人々に恐れられていた。エンキから生まれたウトゥックは、慰霊する事が出来ないと考えられており、対策としては、呪術師が悪霊に対抗する呪文などを用いて払う必要があったとされる。

出典:
幻想世界の住人たちⅡ(新紀元社)
ゼロからわかるメソポタミア神話(イースト・プレス)

作者ひとこと:
ウトゥックのデザインは、人間の身体と山羊の頭を持ち、背中に4枚の翼を生やした精霊の姿に描きました。

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