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2022年11月7日月曜日

「ラクシュミー」


ラクシュミー

インド神話に登場する神の内の一柱。ラクシュミーは、幸運・美・豊穣・王権の女神である。ラクシュミーという名前は「幸運」「繁栄」という意味である。また別名を「シュリー」ともいう。またラクシュミーは「吉祥天(キッショウテン、キチジョウテン)」として日本にも伝来した。「ラーマーヤナ」やプラーナ諸文献以降に「ヴィシュヌ」神の妃としての地位を確立した。しかし元来は独立した女神であった。リグ・ヴェーダに属する「シュリー・スークタ」では、泥と共に住むことを祈願され、牝牛の糞の中に住むとされる。二大叙事詩やプラーナ諸文献では、神々が不死の飲料「アムリタ」を得る為に「アスラ」と協力して海を攪拌した時に、ラクシュミーは海から誕生した。ラクシュミーは水と関わりが深い女神である。「ガジャ・ラクシュミー」と呼ばれる図像では、ラクシュミーは、池の中央に咲く蓮の上に坐し、四方にいる象達が鼻で支えた水瓶から彼女に水を注いでいる。ラクシュミーは幸運と豊穣を司る女神である。豊穣から転じて富も司る。ラクシュミーは、元は運命の女神だったが、豊穣の女神シュリーと統合された。ラクシュミーは優雅で気品ある美貌をもち、「乳海攪拌」で誕生し、彼女を維持神「ヴィシュヌ」が妻とした。ヴィシュヌが化身(アヴァターラ)となって神話に登場すると、ラクシュミーは、その妻や恋人に化身して常に寄り添う。ラクシュミーは、仏教では富の女神である吉祥天と漢訳される。ヒンドゥー教の創世神話である乳海攪拌の際、14の貴重なものの一つとして誕生したのが女神ラクシュミーである。プラーナ文献「ヴィシュヌ・プラーナ」によれば、ラクシュミーは聖仙「ブリグ」の娘として生まれ、呪いから身を隠す必要ができた為、彼女は乳海に避難していた。破壊神「シヴァ」や魔族「アスラ」は姿を現したラクシュミーに求婚したが、先にヴィシュヌが彼女を妻にしてしまう。出し抜かれたシヴァは蛇の魔族「ナーガ」を噛んで悔しがったという。ヴェーダ時代にはラクシュミーは、運命を司る女神とされた。聖典「リグ・ヴェーダ」では幸福の意味だったが、「アタルヴァ・ヴェーダ」になると幸運と不運の女神となる。後のプラーナ文献「パドマ・プラーナ」では、ラクシュミーの姉「アラクシュミー」が不運の女神とされた。また、元々は、ラクシュミーは、豊穣と幸運の女神シュリーとともに太陽神「アーディティヤ」の妻とされていたが、後世にラクシュミーとシュリーが同一視されるようになり、時代を経てラクシュミーに統合された。この為、乳海攪拌にはシュリーが登場するものと登場しないものがある。彼女の夫ヴィシュヌは様々な化身となって多くの神話に登場するが、ラクシュミーもそれに対応する化身となって夫に寄り添った。叙事詩「ラーマーヤナ」では、ヴィシュヌの化身である主人公「ラーマ」の妻「シーター」に化身している。シーターは畑の畝から誕生したが、これはラクシュミーがシュリーと同一視された結果、豊穣を司る大地母神として崇拝された事に由来している。この他にもヴィシュヌが「クリシュナ」に化身すれば、その妻「ルクミニー」と恋人「ラーダー」に、ヴィシュヌが「パラシュラーマ」に化身すれば、その妻「ダーラニー」に化身した。ヴィシュヌの隣にいる美女は全てラクシュミーの化身なのである。ラクシュミーは豊穣を司る事から富の女神としても崇拝される。絵画では蓮華の花や霊水「アムリタ」の瓶を手にした図柄が多い一方、右手から金貨をあふれさせている図柄もよく見られる。時代が下ってラクシュミーは仏教に取り入れられると、吉祥天と漢訳された。吉祥天の夫は武神の「毘沙門天(ビシャモンテン)」だが、毘沙門天のルーツはインド神話の富の神「クヴェーラ」であり、吉祥天は富を司る面が強調された女神といえる。

出典:
神の文化史事典(白水社)
ゼロからわかるインド神話(イースト・プレス)

作者ひとこと:
ラクシュミーのデザインは、頭に蓮華を模した冠を被り、四本の手に蓮華の花、水瓶、宝珠を持った女神の姿に描きました。

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