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2023年1月26日木曜日

「天之御中主神」


天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)

日本神話に登場する神。「古事記(こじき)」では序文のあと、天地創成の神話が始まる。天地が初めて分かれたとき、いきなり天上の世界に現れた神様が、名前に「天の中心の主神」を冠する天之御中主神だった。続いて現れた「高御産巣日神(タカミムスヒノカミ)」と「神産巣日神(カミムスヒノカミ)」とともに、「造化三神(ぞうかさんしん)」とも呼ばれるが、記紀ともにそのような記述が本文にはない。ただ、古事記序文に「乾坤初めて分かれて参神(みはしらのかみ)造化(あめ)の首と作り、陰陽斯に開けて、二霊羣品の祖と為れり」と記され、造化三神はここから生まれた言葉だろう。また、のちに誕生する「宇摩志阿斯訶備比古遅神(ウマシアシカビヒコヂノカミ)」と「天之常立神(アメノトコタチノカミ)」を合わせ、「上の件、五柱(いつはしら)の神は別天(ことあま)つ神」とわざわざ注釈を入れ、特別な神であることを古事記では明示している。つまり、神名でもわかるとおり天之御中主神は、世界に最初に生まれた最も特別な神であったという。しかし、「日本書紀(にほんしょき)」本文において、最初に誕生した神は「国常立尊(クニノトコタチノミコト)」である。天之御中主神はというと、別伝に少しだけ記載されているだけだ。「一書に曰はく、天地初めて判るるときに、始めて倶に生づる神有す。国常立尊と号す。次に国狭槌尊(クニノサツチノミコト)。又曰はく、高天原に所生れます神の名を、天御中主尊と曰す。次に高皇産霊尊(タカミムスヒノミコト)。次に神皇産霊尊(カムミムスヒノミコト)」。最初ではない上に、別天つ神でもなく、この一文のみである。また「先代旧事本紀(せんだいくじほんぎ)」の「神代本紀」や「神代系紀」においては、すべての祖である神「天譲日天狭霧国禅月国狭霧尊(アメユヅルヒアマノサギリクニユヅルツキクニノサギリノミコト)」や「可美葦牙彦舅尊(ウマシアシカビヒコヂノミコト)」とともに、最初に誕生した神となっている。また、「天常立尊(アメノトコタチノミコト)」という別名も記されている。造化三神や別天つ神ではないが、高天原に生まれた一代目の神として、神世七代と呼ばれる集団の一柱に数えられているようだ。記紀における神世七代は、もう少し後になってから誕生する。古事記でも現れてすぐに「身を隠した」と書かれているため、いったい天之御中主神(天御中主尊)がどういう神なのかは、はっきりとしていない。今後も神話や天皇に関わってくることはなく、具体的なエピソードを語られることもなく、表舞台から完全に「身を隠し」ている。日本の神話が形成されていく過程で、中国の道教の影響を受け、新しく生み出された神様とされる。そのため信仰の対象とはならなかったようで、アメノミナカヌシを祀る古い神社は存在しない。しかし近世以降になると、北極星や北斗七星がアメノミナカヌシの名前と重なることから「妙見菩薩(ミョウケンボサツ)」と習合し、妙見さんと庶民から呼ばれ広く信仰されるようになった。各地に三十数社あるとされる妙見社(宮)で祀られ、妙見社のご利益は長寿、息災、招福とされる。また、東京都中央区にある水天宮(すいてんぐう)にも、アメノミナカヌシが祀られ、安産や子育てのご利益があるとされる。これは、もともと祀られていた水天が、インドの最高神ヴァルナを起源とする神様だったため、神仏習合の際にアメノミナカヌシと神格が同じであると解釈されたからだろう。

出典:
神さま別に読む「古事記」「日本書紀」

作者ひとこと:
天之御中主神のデザインは、天の中心にそびえ立つ巨大な神というイメージで描きました。

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