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2020年10月27日火曜日

「野狗子」


野狗子(ヤクシ)

中国に伝わる怪物、妖怪の一種。野狗子は、獣の頭と人間の身体という姿をした妖怪で、「野狗子」という名前の「野狗」とは「野良犬」という意味なので、この妖怪は、犬の頭と人間の身体という姿をしているのであろう。この野狗子は人間の脳味噌を食べる妖怪で、餌食を漁る為に死体が残された戦場や、新たに死体が埋葬された墓場に出没し、死体の頭蓋骨を破って脳味噌を喰らう。しかし必ずしも、脳味噌は死人のものである必要は無く、機会があれば生きた人間の脳味噌でも食べる。野狗子にとって、生きた人間の脳味噌は新鮮なのだが、生きた人間は野狗子の姿を見れば当然ながら逃げたり、野狗子に捕まれば抵抗したりするので、動けない死んだ人間の脳味噌を狙うのである。戦場に野狗子が出没するのは、大量にしかも安易に新鮮な脳味噌が手に入るからである。清代の作家・蒲松齢(ホ ショウレイ)の短編小説集「聊斎志異(リョウサイシイ)」に野狗子の話が記されており、これによると、1661年(順治18年)、山東省栖霞で于七(ウシチ)という人物が農民達を率いて清朝に反乱を起こした。清の軍隊は、この反乱分子を徹底的に掃討、弾圧した為、非常に多くの人が殺された。反乱軍の本拠地から逃げてきた李化竜という人は、たまたま夜間に大軍が行進するのに出会ってしまった。とっさに李化竜は、辺りに転がる死体の中に倒れ込んで死体の振りをして軍隊が通り過ぎるのを待った。ところが軍隊が通り過ぎると、今度は頭の無い死体や、腕の無い死体など、周囲の死体が立ち上がり始めた。その中で、首を斬られたものの、まだ首と身体がくっついたままの死体が「野狗子が来た。どうしよう」と大声で叫び出した。すると、他の死体達も「野狗子が来た。どうしよう」と騒ぎ出した。死体達は、その様に騒ぐと、ばたばたと倒れ、元の様になった。この様子に李化竜がびっくりして逃げようとすると、今度は、人間の身体、獣の頭を持った怪物が出現し、近くにあった死体の頭に齧り付き、そこから脳味噌をずるずると啜り始めた。李化竜は恐ろしくなって頭を死体の下に隠した。その間にも怪物は、身を屈めて、次から次に死体の頭を齧り、そこから脳味噌を啜り食っていた。ついに怪物は李化竜の所にもやって来た。怪物は李化竜が隠れていた死体を跳ね飛ばし、李化竜の頭も齧ろうとした。そこで、李化竜は落ちていた大きな石を握り締め、力任せに怪物の顔を殴った。この一撃は怪物の口の辺りに命中し、怪物は梟の様な悲鳴を上げて口を覆い、そのまま逃げ去って行った。怪物が流した血溜まりの中には、先端が尖って反り返った15センチ余りの歯が残されていたという。

出典:
ファンタジィ事典
幻想世界の住人たちⅢ<中国編>(新紀元社)

作者ひとこと:
野狗子のデザインは、冠を被り、衣を着ている、五つの目を持った犬の怪物の様な姿の妖怪に描きました。

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