クヌム
エジプト神話に登場する神の内の一柱。このクヌムは、男神である。クヌムという名前は「創造するもの」という意味を持つ。その名の通り、この神は、人間や神々、大地や冥界、世界、そして自分自身までも造った。クヌムは轆轤の前に座って、泥から人間を造る姿で描かれる。クヌムが粘土をこねて人間を造り、クヌムの妻である「ヘケト(蛙の女神)」が人間に命を吹き込んだ。クヌム自身は羊頭を持った姿をしている。クヌムは初期王朝時代(紀元前3050年~紀元前2686年頃)にはすでに祀られていた記録が残る古い神で、一時期は太陽神「ラー」と同一視される事もあった。第18王朝期(紀元前1570年~紀元前1293年頃)の女王ハトシェプストは「自分はクヌムとヘケトの夫婦神によって生を受けた」と記録させ、自らの地位を高めようとした。クヌム神の特徴といえば、その姿である。クヌムは、人の身体に雄羊の頭がついた羊頭神である。羊が持つ強い生殖能力を、創造の力として擬神化したのがクヌムなのだという。クヌムという神は、元々ナイル川近くのエレファンティネ(現在のアスワン近く)で信仰されていたのだが、この場所はナイル川が泥を運ぶ場所であり、陶芸とも縁が深い。ここからクヌムは、泥を操る創造神となったのかもしれない。更にエレファンティネはナイル川の源流と信じられていた。冥界、あるいは混沌の海「ヌン」の地下の海から、洞窟を通ってナイル川の水がエレファンティネに到達し、そこからエジプト全土に水が行き渡ると信じられていたのである。そのため、クヌムはナイル川を司る番人でもあり、水をエジプト中へ分配する神と崇められていた。ナイル川の氾濫や渇水の際、ファラオ達はこぞってクヌムに救いを求めたという。この様に、クヌムは優しいだけの神ではない 今でこそ大人しいイメージをもたれる羊だが、元々の性質は荒々しく獰猛だ。クヌムもまた「弓の民を押し返すもの」と呼ばれ、被征服民や反乱分子を制圧する神としても崇められていたようだ。
出典:
ゼロからわかるエジプト神話(イースト・プレス)
作者ひとこと:
クヌムのデザインは、羊の頭と人の身体を持ち、足が蹄になっている姿の神に描きました。
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