大戸惑女神(オオトマトイメノカミ)(オホトマトヒメノカミ)
「古事記(こじき)」において、「大山津見神(オオヤマツミノカミ)」と「野椎神(ノヅチノカミ)」の間に、「大戸惑子神(オオトマトイコノカミ)」とともに生まれた四組目の神。名前の由来は未詳だが、「古事記伝」には「土より霧の発(たち)、その霧によりて闇く、闇きによりて惑ふ」とある。漢字とは別に、音で解釈しようとするのは当時一般的であり、漢字は借物で言の本質は音にこそありとするのが国学者の本領であり、事実それは正当なものだった。しかし、日本語の表記が漢字を以てしか行われなかった時代に、たとえ神名であっても、その漢字のすべてを借字と見なすわけにゆかぬのは、これまた当然な話であろう。さもなければ、「伊邪那岐命(イザナキノミコト)」「伊邪那美命(イザナミノミコト)」というふうに、みな一字一音で表記されたはずである。もっとも、その程度のことなら「古事記伝」を著した本居宣長(もとおり のりなが)も承知済みで、ここの神名を上記のように字とは別に音ととして追求しながらも、いわば自己の信条を裏切るような形で、宣長は「狭土狭霧(さづちさぎり)の狭は、多く詞の上に加ふる辞、土も霧も闇(くら)も惑も、皆字の意にて(中略)、闇きによりて惑ふ云意」と密かに漏らしたのだろう。
出典:
古事記注釈 第一巻(ちくま学芸文庫)
作者ひとこと:
大戸惑女神のデザインは、顔に目も鼻も口もない女神の姿に描きました。
0 件のコメント:
コメントを投稿