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2024年8月2日金曜日

「天狗坊淵の主」


天狗坊淵の主(テンゴンボウブチノヌシ)

神奈川県日連村(現・相模原市緑区)の天狗坊淵にいたぬしで、巨大な鰻だという。「天言坊(テンゴンボウ)」(「神奈川の伝説」)とも。大水が出たとき、よその川に大鰻が打ち上げられたことがあったが、その背に「テンゴンボウ」という字が現われていた。また、この淵で多くの鰻を釣って帰ろうとすると、山のほうから「てんごんぼーうー」という声が響いて来て、魚籠の中の鰻たちが「さらばよー」と答えた、などのはなしも伝わる。この淵の深さによって、その年の豊作・凶作を占ったりもしたという。神奈川県煤ヶ谷村(現・清川村)の「おとぼうが渕」に伝わる話では、ぬしである大きな山女魚が釣られてしまったあと、「天狗坊や、おとぼうはいま仏坂を負われて行くゾ」と、淵に向かって声を上げた(「煤ヶ谷村話」)と語られており、群馬県の「おとぼう鯰(オトボウナマズ)」との重なりもみられる。内郷村の隣の日連村を流れる青田川に天狗坊淵という大深淵がある。この淵の深浅で年の豊凶を占った。また鰻の宝庫といわれ、あまり古いことではないが、野良坊という鰻捕りの名人がやって来たという。野良坊は様々に仕掛けを工夫したが、餌をとられたり糸を切られたりした。ある時は水中から大蜘蛛が糸をかけてきて引き込もうとしたという。そしてどこからともなく「天狗坊の何太郎」という声が聞こえたかと思うと、魚籠の鰻が皆消え失せてしまった。野良坊はこれがぬしかと気がつき、それ以来淵へはいかなかった。また、ある人が鰻を沢山捕って帰ろうとすると山から「テンゴンボウ」と呼ぶ声がし、魚籠の鰻が、「さらばよー」と答えたので、魚籠を投げ捨てて帰ったという話もある。このぬしは大洪水の時に、流れ出してどこかの河原へ打ち上げられたが、その背に「テンゴンボウ」という字が現れていたともいう。また、天狗坊渕で釣りをしていて、何心なく「天狗坊……」と言いかけたら釣った魚がすべて木の葉に変わった、という話も伝わっている。

出典:
怪異・妖怪伝承データベース
龍鱗
日本怪異妖怪事典 関東(笠間書院)

作者ひとこと:
天狗坊淵の主のデザインは、背に「テンゴンボウ」という字が現れている大鰻の姿に描きました。

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