立て返し(タテカエシ)
徳島県美馬市木屋平の話。「立て返し」とは「ツチノコ」の呼び名である。ツチノコを見たという人は村内でも非常に多いが、不気味な容姿と毒々しい色で大抵の人は悪寒を感じ、反吐が出そうになるので、はっきりとした生態は知られていないという。ただ、普段は土中に棲んでいて、たまに地上に出た時に人目につくとされている。そして地上では鈍重にコロリコロリとのたうち回るが、急坂で一度立ち返る(立ち上がる)と、短い棒が立て返しに転がり落ちる(棒が縦向きに転がる)ように、すごい勢いで転げていくのだという。この様子から「俵返し(ヒョウガエシ)」とも呼び、昔の人は「立て返しがやって来たら、下へ逃げるとすぐ追いつかれるから横に逃げなければいけない」と伝えたという。明治30年代(1897~1906)の頃、川上の茗荷に住む猟師が赤がしら(オオアカゲラのこと)を撃ちに家を出た。やがて猟師は緩やかな地形の鉢窪という所へ来て、石に腰を下ろして赤がしらを呼ぶために口笛を吹いていた。すると背後の斜面の上から「パサン、パサン」と音がして、何かと思って振り返ると、全身が大ウロコに覆われた、一升瓶のような太短い怪物が、とんぼ返しに迫ってきていた。猟師は「あれが噂に聞いた立て返しか?」と気味悪くなり、一目散にもと来た道を下へと逃げていったが、怪物もその道伝いに追ってきて、猟師が立ち止まって振り返ると同じように止まって突っ立ち、様子を見てきた。そうしているうちにやっと逃げ帰ることができたのだという。
出典:
日本怪異妖怪事典 四国(笠間書院)
作者ひとこと:
立て返しのデザインは、体が鱗に覆われている、太短い怪物、または怪蛇の姿に描きました。
