自己紹介

このブログでは、僕が描いた神話や伝説などに関する絵や、その絵の解説を載せています。
(イラスト、記事の執筆:マゴラカ、ワンタ) ※2024年度より、月・水・金曜日の21時に更新していきます。

2022年11月6日日曜日

「クリシュナ」


クリシュナ

インド神話に登場する英雄、または神の内の1柱。クリシュナは「ヴィシュヌ」の化身(アヴァターラ)の内の1体である。宇宙維持の神であるヴィシュヌは、世の中が乱れて危機が訪れるたびに、様々に姿を変えて天下り、危機を解決する。ヴィシュヌの第八の化身がクリシュナである。クリシュナは、叙事詩「マハーバーラタ」で、英雄「アルジュナ」の導き手となる。クリシュナの肌の色は浅黒く、非常にハンサムな容姿で女性にモテた。信仰面では、形式や身分にとらわれず、ただ神を信じ愛する事を説く「バクティ(信愛)」思想を軸とする。クリシュナの生涯は、マハーバーラタなどに描かれていて、そのいずれもが豊かなエピソードに彩られている。クリシュナの出生のエピソードでは、ある時、悪王「カンサ」は、ヤーダヴァ族の「ヴァースデーヴァ」と妻「デーヴァキー」の8番目の子供に殺されるという予言を受けた。そこでカンサは、ヴァースデーヴァとデーヴァキーを監禁し、産まれてくる子供を次々に殺した。8番目の子供が産まれる時、ヴィシュヌが姿を現し、カンサにバレないように子供をすり替えよと夫妻に命じた。一方カンサは、予言の子供が逃げたと知り、追っ手として女悪魔「プータナー」を放った。牛飼いの村の牧人「ナンダ」の妻「ヤショーダー」の子にすり替わっていたクリシュナに、プータナーは毒の乳を吸わせようとしたが、何といってもヴィシュヌの化身であるクリシュナには神通力が備わっていた。クリシュナは毒もろともプータナーの命も吸い出したので、プータナーは絶命してしまった。こうしてクリシュナは牛飼いの村ですくすく育つ事になる。幼児時代には、ヤショーダーがつくっていたバターを盗み食いするなど、悪戯好きな面が顔を出す。成長すると、全裸で沐浴する牧女達の服を奪って困らせるといった悪戯もしているが、牧女達はイケメンなクリシュナに夢中で、逆に喜んだらしい。クリシュナのこうした茶目っ気のある性格も、クリシュナの人気の理由の一つだとか。絵画などでは、とびきりの美青年として描かれ、1万6千人もの牧女の妻を娶った話や、愛人「ラーダー」との情愛物語なども人気だという。ある時クリシュナは、雷神「インドラ」への崇拝を示す祭の邪魔をし、怒ったインドラが大雨を降らせた事があった。ところが、クリシュナはゴーヴァルダナ山を持ち上げて、その下に人々や家畜を避難させ、それを見たインドラは逆にクリシュナに畏敬の念をもったという。また、破壊神「シヴァ」の炎に焼かれた愛の神「カーマ」が、クリシュナと、その妻「ルクミニー」との間の息子「プラデュムナ」として転生し、魔族「シャンバラ」を倒すというエピソードもある。一説では、クリシュナは実在した宗教的指導者を神格化した神ではないかと考えられているという。それまでの神々以上に、クリシュナが人々に加護を与える最高の神として地位を再構築するかのようなエピソードがみられるのは、新興宗教の勢力をヒンドゥー教に取り入れようとした為ではないかという。さて、そんなクリシュナは青年時代、大勢の聴衆の前で、悪王カンサを遂に打ち倒した。クリシュナの名声が広がるにつれ、自分を殺すのがクリシュナであると悟ったというカンサは、クリシュナを格闘技大会におびき出し、クリシュナと悪魔や巨人を対戦させたのだ。しかし、クリシュナはこれら刺客達を難なく破って、遂にはカンサを玉座から競技場に引きずり落とした。そしてカンサをいとも簡単に踏み殺したという。中年以降のクリシュナは、マハーバーラタに描かれたクル族の大戦争「クルクシェートラ」の大決戦において重要な役割を果たす。それは、パーンダヴァ勢に加勢し、迷えるアルジュナ王子を精神的に導いて彼に勝利をもたらすというものだ。そんなクリシュナの哲学の粋を集めたのが、クリシュナ信仰の教典とされるマハーバーラタの中の一章「バガヴァッド・ギーター」。タイトルは「神の歌」という意味で、そこには一族同士で争う事に悩み、いい結果になるはずがないと戸惑うアルジュナ王子の疑問に対するクリシュナの答えが、ことさら詳しく書かれている。非常に哲学的で深淵な言葉が綴られているのだが、単純に言えばクリシュナは「今いる立場から逃げたり、行為に結果を求めたりするのは間違っている」として、アルジュナを鼓舞している。人は誰しも身分や仕事などの社会的な地位、いわば義務がある。その義務を果たしながらでも、最高神に捧げる気持ちで「行為」を行い、結果に対する執着を離れてすべてのものに敵意のないこと。それこそ心を平穏にし、永遠の境地に達する為に必要だという。これは元々は、クシャトリヤ(王侯・武人階級)に向けたものであったようだが、身分を超えた人のあり方と救済を説いたこの書は、広くインドで受け入れられた。クリシュナの最晩年は、不運にも猟師に鹿と間違われて、唯一の弱点である踵を射られて死んだ。

出典:
ゼロからわかるインド神話(イースト・プレス)

作者ひとこと:
クリシュナのデザインは、横笛をもった神の姿に描きました。

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