アスタルテ
ウガリットやカナンなどの古代シリアと、その周辺地域で広く崇拝された女神。アスタルテはメソポタミアの女神である「イナンナ」「イシュタル」に相当し、「シリアの女神」と呼ばれる「アタルガティス」や、ギリシア神話の女神「アフロディテ」にも対応する。アスタルテは、「旧約聖書」では「アシュトレト」と呼ばれている。エジプト新王国時代には、アスタルテはメソポタミアのイナンナ・イシュタル同様に戦いの女神とされた。一方、カナン地域では戦争女神的な性格は後退し、もっぱら豊穣の女神とされた。ウガリットでは、アスタルテは女神「アナト」とともに主神「バアル」の配偶神であった。アスタルテの重要性はフェニキアにおいて最も際だっている。「旧約聖書」は、豊穣神としてのアシュトレト(アスタルテ)を、イスラエルの神に対する脅威としている。青銅器時代以降のイスラエルの考古学的遺物に女性土偶があるが、これらはアシュトレトの可能性がある。「士師記」はイスラエル人が「バアル」とアシュトレトに心を奪われた事を繰り返し伝えている。また、「ソロモン王」の時代以降、ソロモンがエルサレムの東に築いた祭壇において、モアブの神「ケモシュ」、古代の中東で崇拝された神「モレク」などと同様に、アシュトレトも崇拝されていた。預言者「エレミヤ」によって、その崇拝を激しく批判された「天の女王」も、アシュトレトに言及したものと考えられる。
出典:
神の文化史事典(白水社)
作者ひとこと:
アスタルテのデザインは、大きな4枚の翼を持った女神の姿に描きました。