イルルヤンカシュ<イルヤンカ>
ヒッタイト神話に登場する大蛇、または竜。イルルヤンカシュは、天候神との闘争を描いた「イルヤンカ神話」で知られる。神話では、天候神と竜神イルルヤンカシュが争い、いったんは天候神が敗れるものの最終的には勝利するという「イルヤンカ神話」には内容の異なる2種類の版がある。一つの版では、天候神を破ったイルルヤンカシュを、女神「イナラシュ(イナル)」が酒宴に招く。その酒宴で酒甕の酒を全て飲み干し、酔いつぶれたイルルヤンカシュは、イナラシュの協力者である人間の「フパシヤシュ(フパシヤ)」によって縛り上げられ、そこにやって来た天候神が、イルルヤンカシュを討ち果たす。次に女神イナラシュとフパシヤシュにまつわるエピソードが続くが、途中で文書が欠損しているため結末ははっきりしない。もう一つの版では、やはりイルルヤンカシュとの戦いに敗れた天候神が、貧しい男の娘との間に息子を儲ける。やがて成人した息子を、天候神はイルルヤンカシュの娘と結ばせ、息子の助けを借りて奪われた目と心臓(イルルヤンカシュと天候神が戦った際、勝ったイルルヤンカシュは、敗れた天候神の目と心臓を奪ってしまった)を取り戻す。本来の姿に復した天候神は再びイルルヤンカシュに戦いを挑み、今度はイルルヤンカシュを打ち破るが、その際、イルルヤンカシュのもとにいた息子も殺される。冬(死と不毛)の象徴とされるイルルヤンカシュを天候神が打ち倒すこの神話は、一般に季節の循環を表すものとされる。また、この神話については、早くから「ゼウス」と「テュポン」をめぐるギリシア神話との関連が指摘されている。
出典:
神の文化史事典(白水社)
世界の神話伝説・総解説(自由国民社)
作者ひとこと:
イルルヤンカシュのデザインは、巨大な蛇の様な姿の竜に描きました。イラストのイルルヤンカシュの周囲には、奪った天候神の目玉と心臓も描きました。