自己紹介

このブログでは、僕が描いた神話や伝説などに関する絵や、その絵の解説を載せています。
(イラスト、記事の執筆:マゴラカ、ワンタ) ※2024年度より、月・水・金曜日の21時に更新していきます。

2020年11月22日日曜日

「白猿」


白猿(ハクエン)

中国に伝わる怪物、妖怪または、幻獣の一種。白猿は、真っ白な体毛を生やした大型の猿である。この白猿は、何百年もの間修行を積んでいる為、人語を話し、変身能力をはじめ、多くの神通力を持っているのだが、白猿は自らの神通力を悪事に働く為に使用し、この様に神通力を自在に使って悪事を働く白猿は、人間達にとって大きな脅威であった。この様な白猿は、長江流域から南の山中に住んでいる。白猿は神通力などを使って人間の美女をよく攫ったという。この白猿は、変身の神通力を使って人間に変身する時、人間の姿では「袁(えん)」という姓を名乗る事が多いという。なぜ「袁」という姓を名乗るかというと「袁」は「猿」という字の音と同じだからであるという。同様に「申」という姓を名乗る事も多いが、この「申」という字は猿を表す字であるので、この「申」の姓も使用される事があるのだという。後漢初期の趙曄(チョウヨウ)によって著された、春秋時代の呉と越の興亡に関する歴史書「呉越春秋」には、人間に化ける白猿の話がある。春秋時代も終わりの頃、越国(浙江省の辺りにあった国)に一人の剣の達人として有名な娘がいた。彼女は越王「勾践(こうせん)」の願いに応じて、武芸の師匠となるべく、北へと向かった。その道中の事、娘は猿公と名乗る一人の老人に出会った。老人は娘に剣の手合わせを所望した。「娘さん、あんたは剣の名人だそうな。わしと手合わせ願えないか」と老人が言うと、娘は「私、隠すものは何もありません。お試しください」と答えた。猿公は、林の中から竹を一本引き抜き、それを二つに折り、娘は短い方の竹を手に取り、猿公は長い方の竹を手に取った。猿公は手に取った長い竹で娘を刺そうとした。しかし娘は三回猿公から来る突きを受け流し、手に持った竹で、逆に猿公を打った。打たれた猿公は木の上に飛び上がり、白猿に変身して何処ともなく去って行った、とある。また、唐代の伝奇小説「補江総白猿伝」には、千年の時を生きた白猿が登場する。この白猿は仙人に匹敵する能力を持ち、空を飛ぶ能力、変身能力に、あらゆる武器が通用しない不死身の肉体も持っていた。その為、完全武装した兵士が百人がかりでこの白猿を襲っても、この白猿を倒す事は出来なかった。ただし弱点があって、酒を飲んで酔うと神通力を失う事と、僅かに臍のの下15cmの所だけ武器が通用するのである。この白猿は、多くの人間の美女を攫っていた。なぜ白猿が美女を攫うかというと、白猿は子供をつくる為には人間の女性が必要で、この白猿も多くの美女を攫って、自らの子孫をつくろうとしていたのである。中国南北朝時代、梁の大同年間(535年~546年)の終わり頃、梁の将軍「欧陽紇(おうようこつ)」の妻が厳重な警護の中から、足跡も残さずに、この白猿に攫われてしまった。欧陽紇は長い捜索の末、遂に南中国の深い山中で、この白猿の住処を発見し、その中で妻と再会した。そこで欧陽紇は妻と、他にも攫われて来た婦人達を救う為に、婦人達と相談して、白猿を謀殺する事にした。まずは白猿の大好物である酒と食用の肉、丈夫な麻縄を用意して、それから欧陽紇と部下の兵士達は物陰に隠れて、白猿が帰って来るのを待ち受けた。やがて、空を飛んで白猿は帰って来たが、人間に姿を変身していた。しかし、住処に大好物の犬がいるのを見つけると、すぐにその犬を捕まえて引き裂き、ガツガツと食べ始めた。その様子を見ていた婦人達はすかさず、白猿に酒を勧めた。やがて、肉をたらふく食べ、酒を大いに飲んで、すっかり酔ってしまった白猿は、神通力を失い、正体である真っ白い体毛を生やした巨大な猿の姿を現してしまった。そこで婦人達は、隠していた麻縄で白猿を石のベッドに縛り付け、隠れていた欧陽紇に合図をした。合図を確認した欧陽紇は、部下達と共に武器を手にして踏み込み、縛られている白猿を滅多突きにしたのだが、まるで鉄や石を突いている様で、まるで効果が無い。欧陽紇達が困っていると、婦人達が白猿の弱点を欧陽紇達に教えた。そこで婦人達から聞いた弱点に従って白猿の臍の下の15cmの所を刺すと、傷口から血がドクドクと流れ出た。白猿はすっかり観念し、「これは天が私を殺そうとしているのだ。お前達の仕業ではない。お前の妻は私との間の子供を妊娠しているが、産まれてくるその子を殺してはならない。後にその子は聖なる皇帝に出会って、一族を繁栄させる事になるであろう」と白猿は欧陽紇に言い残して息絶えた。やがて1年程の時が経ち、欧陽紇の妻は一人の子供を産んだ。この子は後に、唐の初め、文学と書道で名を馳せた「欧陽詢(おうようじゅん)」であった。

出典:
幻想世界の住人たちⅢ<中国編>(新紀元社)

作者ひとこと:
白猿のデザインは、衣を纏っている、長い尾を持った猿の魔神の様な姿に描きました。

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